Saturday, October 3, 2020

コロナ禍、予約取り消した結婚式 担当患者が実現後押し [新型コロナウイルス] - 朝日新聞デジタル

 新型コロナウイルス禍で結婚式をいったん断念した宇都宮市のカップルが3日、栃木県日光市の世界文化遺産・日光二荒山神社で挙式にこぎつけた。理学療法士として病院に勤める女性が、担当の患者から、コロナ禍で結婚式を諦めたカップル向けの無料の挙式企画があることを教えてもらい、応募して実現した。

 このカップルは、理学療法士の阿久津瑞季さん(28)と、会社員の畠山祐介さん(27)。

 瑞季さんは千葉県成田市出身。陸上部員だった高校時代、全国障害者スポーツ大会を観戦し、杖を突きながら笑顔で走る高齢者の姿に感動した。こういう人々に寄り添う仕事がしたい、と大田原市の国際医療福祉大に入学し、理学療法士の資格を取った。

 勤務先の病院では、がんや心臓疾患、骨折などで入院・通院する患者たちのリハビリテーションを手助けしている。いつも笑顔で話しかけ、患者から「アクッちゃん」「あくつ先生」と呼ばれ、慕われている。

 祐介さんとは今年の10月3日、宇都宮市内で結婚式を挙げる予定だった。仕事もプライベートも順調かと思われた。

 ところが今年に入り、コロナ禍に見舞われた。病院では、休日の外出や多人数での会食が禁止された。懸命に仕事をする同僚たちを前に、「結婚式を挙げる」とは言い出せず、7月末に式場の予約を取り消した。予定日に婚姻届だけ出すことにしたが、式を楽しみにしていた両親のことを考えると、胸が痛んだ。

 そんな時、担当する70代の男性患者から、ある情報を教えられた。コロナ禍で結婚式を諦めたカップルや、医療従事者が含まれるカップルを対象に、無料で挙式できる機会を与えてもらえる企画があるという。地域振興を兼ねた結婚式などを手がける日光市の一般社団法人「トチギ結婚式協議会」の企画だった。

 「応募してみたら?」と男性患者に背中を押され、うれし涙をこらえて応募したところ、8組の中から選ばれた。協議会の吉田公美代表理事からは「患者さんから応募を勧められたのは、仕事ぶりへの信頼があるからこそ。結婚式のお手伝いができて誇りに思います」とエールを送られた。

 挙式当日の3日、瑞季さんと祐介さんは、まず宇都宮市役所で婚姻届を提出。日光市へ移動し、約10人の身内だけの式に臨んだ。

 世界文化遺産の玄関口である朱塗りの神橋を、白無垢(しろむく)姿の瑞季さんと、紋付き袴(はかま)姿の祐介さんが、ゆっくりと渡った。日光二荒山神社で指輪を交換し、愛を誓った。瑞季さんの母美千代さん(60)が、あふれる涙をぬぐった。

 瑞季さんは「一度は諦めた結婚式。両親に感謝の気持ちを伝える機会を与えてもらい、患者さんや友人、協議会の皆様に感謝します。コロナ禍で結婚式をキャンセル、延期した方々がたくさんいるので、手をさしのべてほしいと思います」と話した。

 式直後の日曜だけ休み、週明けには患者たちが待つ現場へ戻るという。(梶山天)

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