Mモデルのさらなる高性能バージョン
BMW 8シリーズは、かつての6シリーズの後継となるフラッグシップクーペだ。クーペといってもBMWは1つのシリーズ内でモデルバリエーションを拡充する傾向にあり、8シリーズにもカブリオレ、さらにはホイールベースをのばして4ドア化したグランクーペがある。
ボディバリエーションだけでなく、パフォーマンスにも幅をもたせている。頂点にあるのがMモデルのM8だ。そして近年、BMWはただのMモデルに飽き足らず、さらに性能を高めた“Competition”(コンペティション)仕様を用意するようになった。
フロントのサイドベントなどカーボンを用いたM専用デザインに。より大型になったエアインテークを備える。専用の20インチアルミホイールは、クロームとブラックから選択可能。
今回の試乗車は、M8クーペのコンペティションだった。まずエクステリアでは、ハイグロスブラックのキドニーグリルや、ドアミラー、リアスポイラーなどを備える点がベースとの違いだ。
M社が独自開発した4.4リッターV8ターボエンジンは、ベースのM8比で25psアップの最高出力625ps、最大トルクはベースから変更なく750Nmを発揮する。これだけのハイパワーに対応するためコンペティション専用のエンジンマウントを採用する。8速ATとの組み合わせだ。
ボンネットやルーフにカーボンを用いるなどの軽量化により、8シリーズ(M850i)より105kg軽く、より低重心に仕立てられている。
ボディサイズは、全長4867mm、全幅1907 mm、全高1362mm、ホイールベース2827mmで車両重量1885kg。豪華装備も満載するフラッグシップクーペがベースなので車重は軽くはないが、1800回転から750Nmを発揮するだけあってまったく重さを感じさせることなくスルスルと走り出す。
日本では2010年にM3の25周年記念モデルで初めて登場したコンペティション。カーボンパーツによる軽量化や、よりハードになった走りが特徴。
その名に違わず走ることに徹底的にこだわった
コンペティションの名にごつごつした乗り心地をイメージするが、コンフォートモードで走っている分にはいたって快適。電子制御ダンパーが路面をトレースするようにしなやかに動き、軽くアクセルペダルに力を込めるだけで、矢のような加速をみせる。カタログ値では0-100km/h加速は3.2秒となっているが、とにかく笑ってしまうほどに速い。
M5をはじめ高出力化されたMモデルは、4WD化する傾向にあるが、M8にもインテリジェント4輪駆動システムM xDriveを搭載する。運転モードは、「ROAD(ロード)」「SPORT(スポーツ)」に加えて、サーキット仕様の「TRACK(トラック)」も装備。これを選択すれば運転支援システムや安全性に関する機能がオフになる本気モードだ。
インテリアのデザインは基本的に8シリーズと同様。Mモードを選択する赤いボタンが備わるステアリングなどは専用デザインとなる。ホールド性を高めたMスポーツシートを装着する。
基本的には後輪に優先的に駆動力を配分し、状況に応じて前輪にも供給。またドライバーは任意で前後の駆動力配分を設定することも可能で、ベースの「4WD」モードをはじめ、ほぼ後輪駆動の「4WD SPORT」モード、DSC(横滑り防止装置)をオフにし完全な後輪駆動となる「2WD」モードが用意されている。
さらに注目なのが、Mモデルに初めて採用されたインテグレーテッド・ブレーキ・システムだ。これもバイ・ワイヤ化によって実現したものだが、より快適性を重視した「COMFORT」モードや、よりレスポンスを重視した「SPORT」モードと、車両を減速させるのに必要なブレーキペダルの踏み込み量をドライバーが任意に変更することが可能。これによって濡れている路面や、横方向の加速度が大きい、ブレーキ温度が高い、といったサーキット走行を想定したシーンでも、ブレーキフィールを一定に保ち、常に正確な制動力が得られるという。コンペティションの名に違わず走ることに徹底的にこだわった装備が満載だ。
ブラックとベージュで彩られたフルレザーメリノのインテリアは、コンペティション専用。サイドやセンターコンソールにはアルカンターラが用いられ、上質感を高めている。
© daniel kraus
いささか設定するモードが多すぎる気もするが、ステアリングにはこれらのモード設定の組み合わせをワンプッシュで呼び出せるM1、M2と2つのM(メモリー)ボタンが備わっている。好みの組み合わせをプリセットしておけば、瞬時に本気のサーキット仕様にすることも、はたまたフラッグシップクーペにふさわしい優雅な走りをするコンフォートモードに切り替えることも可能。現代のラグジュアリィスポーツは、これほどの振り幅をもつまでに進化しているのだと感心するばかりだった。ボタン1つでラグジュアリィカーとスポーツカーの顔を切りかえる、最新版ジキルとハイドというわけだ。
文・藤野太一 写真・茂呂幸正 ビー・エム・ダブリュー 編集・iconic
からの記事と詳細 ( 現代のラグジュアリィスポーツはボタン1つで“ジキル”と“ハイド”に - GQ JAPAN )
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